忘れるべきか、 思い続けるべきか
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今昔物語に伝わる兄弟のお話
シオン(紫苑 )は、学名をAster tataricusといい、キク科シオン(アスター)属の多年草、開花は秋で、薄紫の優しい色のお花です。
大きくなると2mちかくになり、秋風にそよぐ姿は心を癒してくれます。
オモイグサ(思い草)やワスレナグサ(勿忘草)という別名があり、あなたのことを忘れないという意味が込められています。
カンゾウ(萱草)は、ユリ科ヘメロカリス(ワスレグサ)属の多年草の総称で、ノカンゾウやヤブカンゾウなどがよく知られ、ユリに似た花を咲かせます。昔、1日で花が閉じる一日花だと思われていたようで、英語ではDaylily(その日のユリ)、ドイツ語でもTaglilie(Tag…日+lilie…ユリ)と呼ばれます。
こちらは、シオンとは反対にワスレグサと呼ばれ、忘れたいという想いが込められています。
このお話の元となったお話は、平安時代に作られた書物、【今昔物語】に収められたお話でタイトルは「兄弟二人、萱草(カンゾウ)、紫苑(シオン)を植ゑし語」といいます。
今は昔、二人の兄弟がいました。二人の兄弟も父のことを慕い、父もまた分け隔てなく二人の兄弟に愛情を注ぎ、幸せに暮らしていました。
ところが、ある時父が亡くなってしまいます。
二人は父を弔うも、父のことを想い嘆き悲しみます。父を想う日々が続きますが、数年が過ぎたころ、二人の心境に変化が表れ始めます。兄は父のことを忘れようと仕事に打ち込みます。兄は【カンゾウ】という草が、想いを忘れさせてくれることを思い出し、父のことを忘れられるようにと墓に植えたのです。
一方、弟は、父を忘れようとする兄に、父の墓参りに誘うも、兄は仕事に没頭するあまり、墓参りに行くことはありませんでした。弟は、兄の態度を嘆かわしく思います。
そこで弟は、兄とは異なり、父の思い出を大切に、決して忘れまいと心に決め【シオン】の草を墓に植えました。【シオン】には、それを見ることで心の中の想いを決して忘れないようにする力があると言われていたのです。
弟は、いつも墓に咲く【シオン】を見ては、父のことを思い出していました。
それから年月が経ったある日のことです。弟がいつものように父のお墓で父の事を思い出していると、どこからか鬼が現れ、こう告げます。
「私はこの墓を守る鬼だ。お前の父を想う気持ちに感動した。そんなお前にある力を授けよう。それは予知夢を見られる力だ。」 それから、弟は毎日見る夢の中で、自分の未来を予知することができるようになったという。
そして、この話はこう結ばれています。嬉しいことのある人は、忘れないために【シオン】という【勿忘草(わすれなぐさ)、思い草】を植え、憂いのある人は、忘れるために【カンゾウ】という【忘れ草】を植えて、これを見るべきであると。
さて、この物語に登場する鬼は、弟に未来を予知する能力を与えたにも関わらず、兄には特に何も記載がありませんでした。最初にこの話を読んだとき、鬼は、父を想う気持ちを忘れなかった弟の方を父思いでいいやつだと評価したのかなと思ったのですが、少し間をおいて考えてみると、また違った考えも湧いてきました。
兄は、父との思い出は過去のこと、ある意味でいつまでもくよくよと嘆き悲しむことを父は望んでいない、過ぎてしまった事ことはしっかりと忘れて、未来を見据え、前を向いて進んでいかなくてはいけないと忘れ草である【カンゾウ】を植えることを決意したのではないかと想像しました。
兄だって父との思い出を本当に忘れたいわけではありませんから。
一方、父との思いを大切にするがあまり、過去に縛られ前を向くことができずにいた弟。そんな弟をみて、鬼が未来を予知する力を授けることで弟をサポートしたのではないかと。
もしかしたらお墓の鬼というのは、二人の父親のだったのかもしれませんね。 「兄の方は大丈夫だな。手助けをしなくても自分の力で歩いて行ける。だが、弟は、このままでは塞ぎこんでしまい、前を向くことができないかもしれない。自分の足で一歩踏み出せるように、予知の力を与えてやろう。」 あくまでも想像です。